高血糖・糖尿病とアーユルヴェーダ
1. 現代医学から見た高血糖・糖尿病
原因
高血糖とは、血液中のブドウ糖濃度が高い状態を指します。この状態が慢性的に続くと、糖尿病と診断されます。糖尿病は主に以下の2つのタイプに分けられます。
1型糖尿病: 自己免疫疾患などが原因で、膵臓のインスリンを分泌する細胞が破壊され、インスリンがほとんど、または全く作られなくなるタイプです。
2型糖尿病: インスリンの分泌量が不足したり、インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)ことで発症するタイプです。遺伝的な要因に加え、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣が大きく関わります。特に日本人の糖尿病患者の95%以上がこのタイプとされています。
対策と標準治療
現代医学における糖尿病の治療は、血糖値を適切にコントロールし、合併症を予防することが目的です。
食事療法: 適切なカロリー摂取と栄養バランスの取れた食事を基本とします。特に、炭水化物の摂取量や食べる順番(野菜や海藻を先に食べる「ベジタブルファースト」)を工夫し、血糖値の急激な上昇を抑えることが重要です。
運動療法: 有酸素運動(ウォーキングなど)やレジスタンス運動(筋力トレーニング)を定期的に行うことで、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され、インスリンの働きが改善されます。
薬物療法: 食事療法や運動療法だけでは血糖値が十分にコントロールできない場合、薬物療法が追加されます。
経口血糖降下薬: 複数種類があり、インスリン分泌を促すものや、糖の吸収を遅らせるもの、インスリン抵抗性を改善するものなど、患者さんの状態に合わせて選択されます。
インスリン療法: インスリン注射によって、不足しているインスリンを直接補います。
2. アーユルヴェーダから見た高血糖・糖尿病
原因
アーユルヴェーダでは、糖尿病(マドゥメーハ)は主に「カパ(Kapha)」のエネルギーの乱れによって引き起こされると考えられています。カパは「水」と「土」の要素から成り、身体の構造や潤滑、安定性をつかさどります。
過食と不適切な食生活: 甘いものや油っこいものの過剰摂取は、カパを増やし、代謝機能(アグニ)を低下させます。
運動不足と怠惰な生活: 身体を動かさない生活は、カパを停滞させ、体内に毒素(アーマ)を蓄積させます。
精神的な要因: 過度なストレスや感情の抑圧も、ドーシャ(生体エネルギー)のバランスを崩し、病気の原因となるとされます。
治療法
1.食事療法(アーハーラ)
カパを増やす甘味、酸味、塩味を控え、カパを減らす苦味、辛味、渋味を多く摂ります。
古米、大麦、キビなどの穀物、緑豆やヒヨコ豆などの豆類を主食とします。
野菜では、ゴーヤ、ヘチマ、ほうれん草など苦味や渋味のあるものが推奨されます。
スパイスは、ターメリック、フェヌグリーク、シナモン、ショウガなどが有効とされます。
冷たい飲み物や乳製品、根菜類、油脂を多く含む食事は避けます。
2.生活習慣の改善(ヴィハーラ)
規則正しい生活、特に早朝の起床を習慣化します。
毎日適度な運動を行います。特に食後の散歩は、消化を助け、血糖値の急上昇を抑えるために重要とされます。(特に食後100歩くことをシャタパディ・ガムナといい推奨されます)
昼寝はカパを増やし、病状を悪化させるため避けるべきとされています。
3.薬草療法(アウシャディ)
とても多くの種類のハーブがありますので、次章で作用別にまとめます。
4.浄化療法(パンチャカルマ)
アーユルヴェーダの根本治療であり、体内の毒素(アーマ)や過剰なドーシャを体外へ排出する目的で行われます。
この治療法は、患者さん一人ひとりの体質や病状に合わせて個別にプランニングされます。アーユルヴェーダの治療は、単に病気の症状を抑えるだけでなく、生活全体を見直すことで、根本的な健康を取り戻すことを目指しています。
信頼できるアーユルヴェーダドクターのいる病院での治療が望ましいです。アーユルヴェーダの専門家が日本にも何人かいます。彼/彼女らの引率によるパンチャカルマツアーに参加するのが現実的です。
高血糖に良いとされるアーユルヴェーダのハーブ
機能別ハーブ分類
1.1. 血糖値の調整(血糖降下作用)
このグループのハーブは、直接的に血糖値を下げる効果が期待されます。
ラロット(Piper sarmentosum、ハイゴショウ)
ジンジャー(ショウガ) Zingiber officinale
ホーリーバジル Ocimum sanctum (カミメボウキ/神目箒)
ゴツコラ Centella asiatica (ツボクサ)
レモングラス Cymbopogon citratus (レモングラス)
ポルパラ Aerva lanata
ギムネマ・シルベスタ Gymnema sylvestre
インスリーナ Cissus sicyoides
ラロット Piper sarmentosum
カキドオシ Glechoma hederacea var. grandis (レンセンソウ/連銭草)
桑の葉 Morus alba
マンジェリコン Coleus forskohlii
ニガウリ/ゴーヤ Momordica charantia
アロエベラ Aloe vera
メマツヨイグサ Oenothera biennis
カロンジ Nigella sativa (ニゲラ)
グドゥチ Tinospora cordifolia (アムリタ)
ブラックベリー(ジャムン) Syzygium cumini (ムラサキフトモモ)
ユーカリ Eucalyptus
ビジャイサール Pterocarpus marsupium (インドキノキ)
サンシュユ Cornus officinalis
パインバーク(松の樹皮) Pinus radiata (ラジアータマツ)
ジンセン(朝鮮人参) Panax ginseng (オタネニンジン)
菩提樹 Ficus religiosa (インドボダイジュ)
ケジリ Prosopis spicigera
サラシア Salacia reticulata (コタラヒム・ブツ
ミミセンナ Cassia auriculata
プシュカルムーラ Inula racemosa (オオグルマ)
ヴィダリカンダ Pueraria tuberosa (インドのクズ)
2. インスリン抵抗性の改善
このグループのハーブは、細胞がインスリンをより効率的に利用できるようにし、インスリンの働きを改善します。
ホーリーバジル Ocimum sanctum (カミメボウキ/神目箒)
ゴツコラ Centella asiatica (ツボクサ)
モリンガ Moringa oleifera (ワサビノキ/山葵の木)
クスリウコン Curcuma longa (ウコン/鬱金)
ラロット(Piper sarmentosum、ハイゴショウ)
シナモン Cinnamomum zeylanicum (セイロンニッケイ)
コリアンダー Coriandrum sativum (コエンドロ)
カロンジ Nigella sativa
オリーブ Olea europaea (オリーブ/橄欖)
パインバーク(松の樹皮) Pinus radiata (ラジアータマツ)
ジンセン(朝鮮人参) Panax ginseng (オタネニンジン/御種人参)
シラジット Asphaltum punjabianum
3. 代謝の促進と消化機能の改善
このグループのハーブは、消化の「火」(アグニ)を強め、体全体の代謝を向上させることで、血糖値の管理をサポートします。
トリカトゥ Trikatu
ラロット(Piper sarmentosum、ハイゴショウ)
ヒング Ferula assa-foetida (アサフェティダ/ヒングアシュタカチュールナ)
ハッカ Mentha canadensis (ハッカ/薄荷)
フェンネル Foeniculum vulgare (ウイキョウ/茴香)
ショウガ Zingiber officinale (ショウガ/生姜)
アグニマンタ Premna serratifolia (タイワンウオクサギ)
アーティチョーク Cynara scolymus(チョウセンアザミ)
トリファラ
ビビタキ Terminalia bellirica (セイタカミロバラン)
ハリータキ Terminalia chebula (ミロバラン)
フェヌグリーク Trigonella foenum-graecum (コロハ)
ヴァチャ Acorus calamus (ショウブ/菖蒲)
4. 毒素(アーマ)の浄化と抗炎症作用
糖尿病は慢性的な炎症状態を伴うことが多いため、このグループのハーブは、体内の毒素を排出し、炎症を抑えることで、病状の悪化を防ぎます。
センシンレン Andrographis paniculata (センシンレン/穿心蓮)
ゴツコラ Centella asiatica (ツボクサ)
クスリウコン Curcuma longa (ウコン/鬱金)
キダチコミカンソウ Phyllanthus niruri
ラロット(Piper sarmentosum、ハイゴショウ)
シャラプンカ Tephrosia purpurea (ナンバンクサフジ)
ニーム Azadirachta indica (インドセンダン)
アムラ Phyllanthus emblica (アムラ)
グドゥチ Tinospora cordifolia (アムリタ)
マンジシュタ Rubia cordifolia (アカミノアカネ)
ハリータキ Terminalia chebula (ミロバラン)
カロンジ Nigella sativa (ニゲラ)
5. 合併症の予防と臓器保護
このグループのハーブは、特に糖尿病が引き起こす可能性のある腎臓や心臓、神経系の合併症を予防する目的で用いられます。
アルジュナ Terminalia arjuna
プナルナヴァ Boerhavia diffusa (ナハカノコソウ)
クミスクチン Orthosiphon aristatus (ネコノヒゲ/猫の髭)
ラロット(Piper sarmentosum、ハイゴショウ)
メマツヨイグサOenothera biennis (/雌待宵草)
ゴクシュラ Tribulus terrestris (ハマビシ)
ヴァルナ Crataeva nurvala
シラジット Asphaltum punjabianum
クトゥキ Picrorhiza kurroa (コオウレン)
現代薬の作用機序に対応するハーブ
1. インスリン分泌を促す作用を持つハーブ
これらのハーブは、膵臓からのインスリン分泌を促進する働きがあるとされます。
ステビア Stevia rebaudiana (ステビア)
コリアンダー Coriandrum sativum (コエンドロ)
マンジェリコン Coleus forskohlii
ギムネマ・シルベスタ Gymnema sylvestre (ホウライアオカズラ/鳳来青葛)
フェヌグリーク Trigonella foenum-graecum (コロハ)
ニガウリ/ゴーヤ Momordica charantia (ツルレイシ/蔓茘枝)
サンシュユ Cornus officinalis (サンシュユ/山茱萸)
ジンセン(朝鮮人参) Panax ginseng (オタネニンジン/御種人参)
2. 糖の吸収を遅らせる作用を持つハーブ
これらのハーブは、食物から摂取した糖が腸から血液中に吸収されるのを緩やかにする働きがあるとされます。
桑の葉 Morus alba (クワノハ)
ギムネマ・シルベスタ Gymnema sylvestre
インスリーナ Cissus sicyoides
カキドオシ Glechoma hederacea var. grandis (レンセンソウ)
ごぼう Arctium lappa
フェヌグリーク Trigonella foenum-graecum (コロハ)
オオバコ Plantago major (オオバコ/大葉子)
グアバ Psidium guajava (バンジロウ/蕃石榴)
サラシア Salacia reticulata (コタラヒム・ブツ)
ミミセンナ Cassia auriculata
補足
インスリン抵抗性とは?
インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されているにもかかわらず、その働きが悪くなり、血糖値を下げる効果が十分に発揮されない状態を指します。
通常、食事をすると血糖値が上がり、膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは、血液中のブドウ糖をエネルギーとして利用するために細胞へ取り込む役割を担っています。しかし、インスリン抵抗性がある場合、細胞がインスリンの「指示」をうまく受け取ることができなくなり、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなります。
その結果、体は血糖値を下げようと、さらに多くのインスリンを分泌します。これが続くと、膵臓が疲弊してインスリン分泌能力が低下し、最終的に糖尿病へと進行します。
現代医学でも、このインスリン抵抗性を改善することが、2型糖尿病の治療において非常に重要視されています。インスリン抵抗性を改善するハーブは、細胞がインスリンに対してより敏感になるよう助けることで、血糖値のコントロールをサポートします。
インスリンを分泌する能力には、個人差や遺伝的な要因が影響しますが、体内でインスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞は、一度に作って貯蔵するのではなく、必要に応じてインスリンを合成し、分泌しています。
インスリン分泌の「能力」には限界がある
膵臓のβ細胞がインスリンを分泌する能力は、誰もが無限に持っているわけではありません。
血糖値を乱高下させるような生活(高カロリー、高糖質の過食や運動不足)を続けると、常にインスリンを大量に分泌しなければならない状態になります。
この状態が長期間続くと、β細胞は疲弊し、機能が低下します。最終的には、インスリンを十分に分泌できなくなり、血糖値をコントロールできなくなってしまいます。
β細胞の機能回復・保護に役立つ方法
1. 食事と栄養
食事はβ細胞の負担を直接的に軽減し、機能を保護する上で最も重要です。
低GI食(低グリセミックインデックス食):血糖値を急激に上昇させない食品を選びましょう。全粒穀物、野菜、豆類などがこれに当たります。血糖値の乱高下を防ぐことで、β細胞のインスリン分泌量を抑え、負担を減らすことができます。
抗酸化物質の摂取:β細胞は酸化ストレスに非常に弱いです。ビタミンCやE、ポリフェノール、βカロテンを多く含む食品(緑黄色野菜、果物、ナッツ類など)を積極的に摂ることで、酸化ストレスから細胞を保護できます。
良質な脂質の摂取:オメガ3脂肪酸(魚油、アマニ油など)は、細胞膜の健康を保ち、インスリン感受性を改善する働きがあります。
2. ハーブ
アーユルヴェーダや伝統医学で用いられるハーブの中には、β細胞の保護や機能改善に役立つと考えられているものがあります。
グドゥチ (Tinospora cordifolia):抗酸化作用と抗炎症作用に優れ、β細胞を保護する効果が研究されています。
ターメリック Curcuma longa(ウコン/鬱金):主成分クルクミンが強力な抗酸化作用を持ち、β細胞の保護に寄与するとされます。
ニーム Azadirachta indica(インドセンダン):血糖値を下げるだけでなく、β細胞の機能回復を助ける可能性が示唆されています。
ニガウリ/ゴーヤ Momordica charantia:インスリンに似た働きをする成分が含まれ、膵臓のインスリン分泌細胞に良い影響を与えると考えられています。
3. その他の方法
生活習慣の改善も、β細胞の健康に欠かせません。
適度な運動:有酸素運動や筋力トレーニングは、細胞のインスリン感受性を高め、インスリンの必要量を減らします。これにより、膵臓への負担を軽減できます。
体重管理:特に肥満、内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性の大きな原因となります。適正体重を維持することは、β細胞の機能を保護する上で最も効果的な方法の一つです。
ストレス管理:慢性的なストレスは、血糖値を上げるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を促し、β細胞に負担をかけます。瞑想やヨガ、十分な睡眠などでストレスを管理することが大切です。
β細胞の健康は、日々の食生活や生活習慣の積み重ねによって決まります。これらの方法を継続的に実践することが、β細胞の機能を守り、糖尿病の予防・改善につながります。
1. インスリンに似た作用を持つ成分
科学的な研究が進み、比較的知られている「植物インスリン」またはそれに類する物質は以下の通りです。
ニガウリ Momordica charantia:ポリペプチド-p(P-インスリン)という、インスリンと似た構造を持つタンパク質が発見されています。これが、ニガウリの血糖降下作用の主要な原因の一つと考えられています。
オクラ Abelmoschus esculentus:種子から抽出された成分に、インスリン感受性を改善する作用や、血糖値を下げる効果が示唆されています。
アロエベラ Aloe vera:アロエのゲルには、インスリンの分泌を促す作用や、血糖値を下げる効果を持つ成分が含まれているとされます。
2 糖の吸収を穏やかにすることで血糖値に良い影響を与えるもの
サブジャ(バジルシード)、チアシード、サイリウム は
種子が水分を吸収して膨らみ、周りがゼリー状の膜(ムシラージ)で覆われます。
このゲル状の物質が、消化管内で食物を包み込み、糖質の消化吸収を遅らせます。
結果として、食後の血糖値の急激な上昇(血糖値スパイク)を防ぎ、インスリンの過剰な分泌を抑えることができます。
満腹感の向上
膨潤した種子は少量でも満腹感を得やすいため、過食を防ぎ、カロリー摂取量を抑えるのに役立ちます。これは、肥満がインスリン抵抗性の大きな原因であることから、間接的に糖尿病の予防・改善につながります
これらは、日々の食事に手軽に取り入れることができ、特に食前に水でふやかして摂取することで、より効果的に血糖値の上昇を抑えることができます。ただし、他の食物繊維と同様に、摂取しすぎると消化不良や便秘を引き起こす可能性もあるため、適量を心がけることが重要です。
また逆に盲点になりやすいのが野菜ジュースや100%の果物ジュースです。これらのジュースは自家製も含め糖類の吸収が良くGI値を急激に上昇させます。特に食べすぎや糖質、動物性油脂なども控えていて、健康に悪いことはしてないのに、血糖値が下がらない・・・というかたに多いのが果物のジュースです。果物の状態で獲るのなら食物繊維によって吸収が緩やかになり、各種ビタミンも取れ良い習慣ですが、ジュースになると、吸収が良すぎてインスリンの分泌が乱高下し、β細胞に負担をかけます。ジュースは楽しみとし、習慣にするのは気を付けましょう。
以上 ご参考になりましたら幸いです。